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誕生日のカード

どれも、一つにつながっていた

誕生日のカード

朗読で聴く

第一章 学校の事務室

七十になった。

カナダの、まん中あたりの、広い麦畑の中の小さな町に住んでいる。

どこまでも平らで、空が、地面の倍くらいある町だ。

わたしは、この町の、たった一つの小学校で、四十年、事務の仕事をした。

二十五で働きはじめ、六十五で辞めた。

事務室は、玄関を入って、すぐ右にあった。

電話を取り、給食のお金を数え、けがをした子の、ひざに薬をぬった。

雪の日には、迎えの遅い子と、事務室で、一緒に待った。

熱を出した子を、ソファーに寝かせて、親が来るまで、おでこに手を当てていた。

忘れ物の手袋は、名前がわからなくても、だれのものか、たいてい、わかった。

夫のトムは、九年前に死んだ。

麦を作っていた人だった。

子どもは、いなかった。

だから、学校の子どもたちが、わたしの子どものようなものだった。

全部の子の、名前と、誕生日を、覚えていた。

誕生日の朝には、事務室の前を通る子に、おめでとう、と言った。

第二章 出ていった子どもたち

この町は、少しずつ、小さくなっていった。

麦の値が下がると、畑を手放す家が出る。

そういう家は、子どもを連れて、町を出ていった。

都会へ、海の近くの町へ、ずっと遠くの州へ。

出ていく日の朝、子どもたちは、たいてい、泣いていた。

毎年、二人か三人、学校から、子どもがいなくなった。

最後の日、その子たちは、事務室に、あいさつに来た。

わたしは、決めていた。

出ていった子には、十八になるまで、毎年、誕生日のカードを送る。

新しい住所を、親に、書いてもらった。

カードには、いつも、同じことを書いた。

お誕生日おめでとう。学校は、あなたのことを、覚えています。

四十年で、出ていった子は、八十人をこえた。

返事が来るのは、ほんの少しだった。

住所が変わって、もどってくるカードもあった。

ほとんどは、届いたのかどうかも、わからなかった。

トムは、ときどき、言った。

届いたかどうかもわからない手紙を、よく、そんなに書けるな。

わたしにも、わからなかった。

ただ、誕生日が来ると、書かずにいられなかった。

カードは、町に一つだけの文房具屋で、いつも、同じ白いのを買った。

一年に、二十枚、三十枚。

夜、トムが寝たあと、台所の机で、一枚ずつ書いた。

宛名を書きながら、その子の顔を、思い出した。

鼻の頭のそばかす。給食のパンを、いつも、半分残していたこと。

ばらばらの場所にいる、ばらばらの子どもたちに、一枚ずつ。

その子たちは、おたがいのことを、知らない。

わたしが送っているのは、どこにもつながらない、小さな紙切れだった。

学校を辞めてからも、まだ十八にならない子には、送り続けた。

今は、もう、三人しか残っていない。

第三章 七十の誕生日

この秋、わたしは、七十になった。

朝から、雨だった。

だれも来ない誕生日だと思っていた。

トムが死んでから、誕生日は、いつも、一人だった。

朝、自分で、小さなケーキを焼いて、夜に、一切れだけ食べる。

それで、十分だと思っていた。

昼すぎ、玄関のベルが鳴った。

ドアを開けると、背の高い男の人が立っていた。

三十四、五に見えた。

ミセス・ハリス、ですよね。

ぼく、ダニエルです。九つのとき、この町を出ていった。

わたしは、その子の顔を、思い出した。

くつひもを、いつも、ほどけたままにしていた子だ。

ダニエルは、わたしの肩ごしに、うしろを見た。

それから、言った。

ぼく一人じゃ、ないんです。

家の前の道に、車が、何台も止まっていた。

ドアが開いて、人が、次々に、降りてきた。

二十人、三十人。

大人になった顔の中に、子どものころの顔が、一つずつ、見えた。

第四章 箱いっぱいのカード

町の集会所を、だれかが、借りてくれていた。

長い机の上に、箱が、いくつも、並べてあった。

中には、カードが、入っていた。

わたしが書いた、誕生日のカードだった。

一人ずつ、自分の箱を、持ってきていたのだ。

九枚の人も、十四枚の人もいた。

カードの角は、どれも、すり切れていた。

何度も、取り出して、読んだのだろう。

机の向こうから、だれかが、言った。

引っ越した最初の年、だれも友だちがいなくて。

誕生日に、ミセス・ハリスのカードだけが、来たんです。

ダニエルが、話してくれた。

五年前、メーガンが、インターネットに書いたんです。

子どものころ、前の学校の事務の人から、十八まで、毎年、誕生日のカードが来た、って。

そうしたら、ぼくも、わたしも、って、返事が、次々に来た。

バンクーバーからも、トロントからも、海のむこうの国からも。

みんな、自分だけだと思っていたんです。

それから、ぼくたちは、毎年、どこかで集まるようになった。

ミセス・ハリスのカードの会、って呼んでいます。

部屋のすみで、若い夫婦が、赤ちゃんを抱いていた。

メーガンと、ルーカスです、とダニエルが言った。

二人とも、ちがう年に、この町を出た。

カードの会で、はじめて会って、結婚したんです。

メーガンが、赤ちゃんを、わたしの腕にのせた。

この子が生まれたのは、あなたのカードのおかげです。

わたしは、何も言えなかった。

ただ、赤ちゃんの重さを、腕で感じていた。

第五章 どれも、一つにつながっていた

その夜、家に帰って、わたしは、台所のいすに、長いあいだ座っていた。

四十年、わたしは、カードを、一枚ずつ送ってきた。

ばらばらの場所にいる、おたがいを知らない子どもたちに。

届いたかどうかもわからない、小さな紙切れを。

どこにもつながらないと、思っていた。

でも、その一枚一枚が、子どもたちを、つないでいた。

同じ字で、同じ言葉が書かれたカードを、みんなが持っていた。

だから、おたがいを、見つけることができたのだ。

わたしが送っていたのは、紙切れではなかった。

遠くにいる子と、遠くにいる子のあいだに渡した、細い糸だった。

その糸が、わたしの知らないうちに、結ばれていた。

一枚だけなら、ただの紙切れだった。

でも、毎年、一人も飛ばさずに送ったから、全部が、一つの輪になった。

トムのことを、思い出した。

届いたかどうかもわからない手紙を、よく、そんなに書けるな。

トム、届いていたよ。

それも、わたしの知らない、遠いところで、つながっていたよ。

窓の外では、雨が、やんでいた。

平らな麦畑の上に、星が、どこまでも、出ていた。

エピローグ

次の年の春、わたしは、文房具屋に行った。

いちばんふつうの、白いカードを、一枚、買った。

家に帰って、台所の机で、ペンを取った。

宛先は、ルーカスと、メーガンの、赤ちゃんだ。

あの子の、最初の誕生日が、来週だった。

わたしは、いつもと同じことを、書いた。

お誕生日おめでとう。

それから、少し考えて、一行だけ、足した。

あなたは、たくさんの人と、つながっています。

封をして、切手をはり、郵便局まで、歩いていった。

ポストの口に、カードを入れた。

カードは、小さな音を立てて、落ちていった。

わたしは、少し笑って、家に帰った。

ソウルミッション358

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