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テーブルの足し板

枠からはみ出していた

テーブルの足し板

朗読で聴く

第一章 大きな人

六十八になった。

アメリカの中西部の、小さな町に住んでいる。

夫のフランクは、去年の冬に死んだ。七十一だった。

四十年、町の製材所で働いた。

娘が一人いて、隣の州で、看護師をしている。

フランクは、大きな人だった。

背は二メートル近くあって、肩幅は、戸口いっぱいだった。

家の戸口を通るたびに、頭をかがめた。

それでも、ときどき、ぶつけた。

台所の戸口の上の木には、あの人の頭の形に、少しへこみがある。

店で売っている背広は、どれも袖が短かった。

結婚式の背広も、手首が出ていた。写真を見るたびに、わたしは笑った。

車の運転席は、いつもいちばん後ろまで下げてあった。

教会の長椅子に座ると、隣の人が、少し詰めた。

映画館の椅子では、膝が前の席につかえた。

フランクは、どこにいても、枠に収まらない人だった。

わたしは、小柄なほうで、あの人と並ぶと、肩までしかなかった。

体だけではなかった。

フランクは、人を家に呼ぶのが好きだった。

呼ぶ人の数も、いつも、枠に収まらなかった。

日曜の昼に、三人呼ぶと言って、七人連れてくる。

冷蔵庫の中身を数えながら、わたしは、何度もため息をついた。

第二章 感謝祭のテーブル

うちの食堂のテーブルは、六人がけだった。

真ん中を引き離して、足し板を一枚はめると、十人がけになる。

毎年、感謝祭の日には、その足し板が必要だった。

フランクが、人を呼んでくるからだ。

奥さんを亡くしたばかりの、郵便局の人。

国に帰れない、大学の留学生。

バスの乗り場で、行くところがないと言っていた、知らない若い人。

夫と別れて、子どもを連れて、町に越してきたばかりの女の人。

十人がけでも足りない年は、教会の地下から、折りたたみの椅子を借りてきた。

わたしは、七面鳥を、いつも二羽焼いた。

前の晩から、パイを四つ焼いた。

マッシュポテトは、いちばん大きな鍋で作った。

台所に立ちっぱなしで、自分は座る時間もなかった。

みんなが帰ったあと、山のような皿を、夜中まで洗った。

フランクも洗ったが、あの人の大きな手では、皿がよく割れた。

一度だけ、わたしは、フランクに言った。

今年は、家族だけにしてちょうだい。

うちのテーブルは、六人がけなのよ。

フランクは、困ったように笑って、言った。

足し板があるじゃないか。

その年も、テーブルは、十二人になった。

わたしは、台所で、少しだけ泣いた。

フランクは、食堂で、知らない人たちと、大きな声で笑っていた。

第三章 足し板を外す

フランクが死んだあと、わたしは、足し板を外した。

テーブルを、六人がけに戻した。

もう、要らないと思った。

感謝祭は、娘の家で、三人で過ごした。

静かで、きちんとしていた。わたしが、ずっと望んでいた感謝祭だった。

帰りの車の中で、わたしは、なぜか、何も話せなかった。

足し板は、ガレージの奥に、立てかけておいた。

ほこりよけに、古いシーツをかけた。

わたしは、ずっと、小さくてきちんとした家に住みたかった。

カーテンも、食器も、そろえて、きれいに暮らす家だ。

決まった人数で、決まった時間に、静かに食事をする家だ。

フランクと結婚して四十五年、そういう日は、ほとんどなかった。

あの人は、どこにいても、はみ出していた。

戸口からも、背広からも、六人がけのテーブルからも。

わたしは、それを、ずっと困ったことだと思ってきた。

友だちの家の、きちんとした食卓が、うらやましかった。

四人で、ろうそくを立てて、静かに食べる食卓だった。

やっと、そういう暮らしができる。そう思ったのに、六人がけのテーブルは、広すぎた。

第四章 入りきらなかった人たち

フランクの葬式は、町の小さな教会でした。

わたしは、家族と、近所の人くらいが来るのだと思っていた。

始まる前に、牧師が、困った顔で、わたしのところに来た。

フランクを、四十年知っている、年をとった牧師だった。

席が、足りません。

教会の長椅子は、すぐにいっぱいになった。

後ろに立つ人が並び、それでも入りきらなかった。

扉を開けたままにして、外の石段にも、芝生にも、人が立った。

わたしの知らない顔ばかりだった。

娘も、あの人たち、誰、と小さな声で聞いた。

わたしにも、分からなかった。

式のあと、一人ずつ、わたしのところに来た。

しらがの男の人は、一九八七年の感謝祭に、お宅のテーブルにいました、と言った。

妻を亡くした年でした。あの日がなかったら、わたしは、年を越せなかった。

インドから来たという女の人は、留学生のとき、二度、呼んでもらいました、と言った。

いまは、この州の病院で、医者をしています。

バスの乗り場で会ったという男の人は、子どもを三人連れていた。

あの晩、折りたたみの椅子に座らせてもらいました。

それから、ちゃんと働けるようになりました。

いまは、自分の家の感謝祭に、知らない人を一人呼ぶんです。フランクさんみたいに。

牧師が、わたしに言った。

フランクは、どこにも収まらない人でしたね。

でも、だから、この人たちは、どこかに座れたんです。

わたしは、うなずいた。うなずくことしか、できなかった。

第五章 はみ出したところ

その晩、わたしは、六人がけのテーブルに、一人で座っていた。

四十五年、わたしは、夫は枠に収まらない人だと思ってきた。

戸口からも、背広からも、テーブルからも、はみ出す人だと。

それを、困ったことだと思ってきた。

でも、そうではなかった。

枠からはみ出していたところが、あの人の、いちばん大きなところだった。

足し板一枚ぶん、折りたたみの椅子の数だけ、あの人は、はみ出していた。

そのはみ出したところに、四十五年、知らない人たちが座っていた。

郵便局の人も、留学生も、子どもを三人連れた人も。

六人がけのテーブルに収まっていたら、今日、教会は、半分も埋まらなかった。

扉の外まであふれた人たちは、あの人の、はみ出したところだった。

わたしは、立ち上がって、ガレージの明かりをつけた。

足し板は、奥の壁に、立てかけたままだった。

シーツを外すと、足し板のふちには、四十五年ぶんの、細かい傷がついていた。

フォークの傷も、ろうそくのしみも、子どもが落書きした跡もあった。

エピローグ

十一月、わたしは、足し板を、テーブルにはめた。

十人がけに戻った。

傷だらけの足し板が、真ん中で、少しだけ色が違って見えた。

教会の地下から、折りたたみの椅子を、四つ借りてきた。

葬式のあと、電話をくれた人たちに、手紙を書いた。

今年の感謝祭に、来てください、と。

七面鳥は、二羽焼いた。

パイも、四つ焼いた。

娘が、台所を手伝いに来てくれた。

孫を二人連れて、隣の州から、車で来てくれた。

ママ、これで何人になるの。

わたしは、少し考えてから、言った。

分からない。足りなかったら、椅子を借りてくればいいのよ。

玄関の呼び鈴が鳴った。

わたしは、エプロンで手をふいて、戸口に向かった。

頭をかがめなくても通れる戸口が、少し広すぎる気がした。

ソウルミッション358

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