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光の在処——魂が目覚める夜

光の在処——魂が目覚める夜


第一章 灰色の朝

三十四歳の秋、桐島凜は自分が何者かを忘れていた。

東京・渋谷のマーケティング会社に勤めて八年。チームリーダーという肩書きだけが膨らみ、中身はとうの昔に空洞になっていた。毎朝七時に起き、満員電車に揺られ、誰かの決めた目標のために数字を積み上げ、夜十一時に帰宅する。それを繰り返すことが「生きること」だと、いつしか信じ込んでいた。

十月の月曜日、凜は会社のトイレの鏡を見て、そこに映る自分の顔に気がついた——目が、死んでいた。

光がない。瞳の奥に、かつてあったはずの何かが、もうなかった。

「私、何のために生きてるんだろう」

声に出したとき、その言葉は便器の流水音にかき消された。誰も聞いていない。神様さえも聞いていないような気がした。

その日の夕方、大型プレゼンで致命的なミスを犯した。三ヶ月かけて準備した企画書のデータが、プレゼン直前に消えた。バックアップもなかった。クライアントの前で手ぶらで立ち、凜は初めて人前で声を詰まらせた。上司の冷たい目線。同僚の憐れみ。

会社を出たとき、外はすでに暗かった。

凜は電車に乗れなかった。改札口の前で足が止まった。雑踏が波のように押し寄せ、人々が自分をすり抜けていく。ホームの向こうに光るレールを見たとき、ふと「消えてしまいたい」という言葉が、胸の底から浮かんできた。

それが怖かった。その言葉が自分の口から出てきたことが。

凜は改札をくぐらず、渋谷の路地を歩いた。どこへ行くとも知れず、ただ歩いた。


第二章 星が見える場所

代々木公園の外縁にある小さな公園に、凜は迷い込んだ。

街灯一つだけが灯る、静かな場所だった。ベンチに腰を下ろすと、膝の力が抜けた。涙は出なかった。それよりも深い、枯れた疲弊があった。

「寒くないですか」

声がしたのは、隣からだった。

老いた女性が、温かそうな茶色のコートを着て座っていた。七十代だろうか。白髪を丁寧にまとめ、膝の上に文庫本を開いていた。街灯の薄明かりの中で読書をしているように見えたが、実は空を見上げていた。

「ここ、木の隙間から星が見えるんですよ」

凜は空を見上げた。東京の夜空に、三つか四つ、点のような星が光っていた。それだけで、なぜか胸が震えた。

「……何を読んでるんですか」と、凜は口を開いた。

「詩集です」と老女は言った。「若い頃に書いた詩を、最近また読み返してるんです。恥ずかしいものですけどね」

そして老女——後に名前が静子だとわかった——は、ページを一枚めくって、静かに読み上げた。

すべて内側にある、愛と光を放つ。

凜は息をのんだ。

「……それ、どういう意味ですか」

「私が若い頃、すべてを失ったと思った時期があってね」と静子は言った。「夫を事故で亡くして、子どもは二人まだ小さくて、仕事も体も限界で。そのとき、ある人に言われたんです。あなたが求めているものは、あなたの外側にはないって」

凜は何も言えなかった。

「最初は意味がわからなかった。でも今はわかる。どんなに暗い夜でも、自分の中に小さな火が消えないでいる。それを信じることが、生きていくってことだと思って」

静子は本を閉じた。

「あなた、今夜、どこかへ消えようとしてたんじゃないですか」

凜は俯いた。否定できなかった。

「……怖かった。そう思った自分が」

「怖いと思えたなら、大丈夫ですよ」と静子は静かに言った。「魂はちゃんと、生きようとしてる」


第三章 道標

それから一週間、凜は会社を休んだ。

初めて自分のために休んだ一週間だった。スマートフォンを机の引き出しに入れ、朝、カーテンを開け、陽光の中でコーヒーを飲んだ。何も生産しない時間が、最初は罪悪感に似た重さを持って圧しかかってきた。でも三日目から、少しずつ違うものが見えてきた。

光が、カップの縁で屈折して壁に小さな虹を作っていた。

こんなことが、毎朝起きていたのかもしれない。気づかないでいただけで。

凜はノートを一冊買った。そこに、自分が「好きだったこと」「やりたかったこと」を書き始めた。高校時代に夢中だったデザイン。大学の頃に書いていたブログ。誰かに「それ素敵ですね」と言われたときの、胸の内側から溢れるような喜び。

それらを書き出しながら、凜は気づいた。

シナリオは道標、進むべき方向示す。

静子の詩の言葉が、ふとよみがえった。自分の人生に起きてきたことは——ミスも失敗も、あの公園でのあの出会いも——すべてが何かを示す道標だったのかもしれない。無意味な出来事など、一つもなかったのかもしれない。

凜は電話を一本かけた。学生時代の友人、奈央への電話だった。奈央はNPOでデザインの仕事をしていて、以前に「一緒にやらない?」と誘ってくれていたのを、凜は忙しさを理由に断り続けていた。

「久しぶり。……ねえ、奈央、あの話、まだ生きてる?」

電話の向こうで、奈央が一瞬黙った。そして笑った。

「生きてる。ずっと待ってたよ」


第四章 命を大切にすること

復職の日、凜は上司に申し出た。会社を辞めること、そしてその理由を、正直に話した。

上司は最初、驚いた顔をした。それから少し間を置いて、「桐島さん、ずっと無理してたんだな」と言った。責める声ではなかった。

「私もな、三十代の頃に一度折れたことがある」

それは意外な告白だった。いつも強くあるべしという空気を纏っていた上司が、そんな言葉を持っていたとは。

「助けられてさ、人に。だから今でも働けてる。……辞めるのは止めんけど、桐島さんがちゃんと生きてくれるなら、それでいい」

帰り道、凜は泣いた。改札をくぐりながら、電車を待ちながら、声を押し殺して泣いた。

誰かに助けてもらっていたことを、凜はずっと気づかないでいた。上司が無言でフォローしてくれていたことも、奈央がずっと待っていてくれたことも、静子があの夜ベンチに座っていてくれたことも。

助けられて感謝し、命を大切にする。

命を大切にするということは、生き延びることだけじゃない、と凜は思った。自分の奥底にあるものを、丁寧に掘り起こして、それを世界に差し出すこと。それが、命を大切にするということなのだと。


第五章 内側の光

三ヶ月後、凜は奈央のNPOでデザインの仕事を始めた。

給料は以前の半分以下だった。でも、朝、目が覚めるたびに、その日が待ち遠しかった。

チラシを一枚デザインするたびに、それが誰かの手に渡り、誰かの行動を変えるかもしれないと思うと、指先から光が流れ出るような感覚があった。大げさではなく、本当にそう感じた。

ある日、奈央が言った。

「凜ってさ、デザインするとき顔が変わるね」

「変わる?」

「なんか、内側から光ってる感じ。昔からそうだったと思うんだけど、最近特に」

凜はその言葉を胸の中に仕舞った。

内側から光る。

それは自分で作るものではなかった。磨いてもいない、努力で獲得したものでもない。もともとそこにあったもの——ただ、長い間、分厚い壁の向こうに閉じ込めていただけだった。

十二月の夜、凜は再び代々木公園の外縁の公園を訪れた。静子に会いたかった。でも、ベンチには誰もいなかった。

凜はベンチに座り、空を見上げた。木の隙間から、星が見えた。今夜は五つ、はっきりと輝いていた。

あの夜、あの老女が本当に存在したのかどうか、凜には確かめる術がない。でも、それでいいと思った。大切なのは、あの瞬間に凜の中の何かが目を覚ましたという事実だった。

魂の輝きを信じ、そのために今を生きる。

そうだ、と凜は思った。理由は後からついてくる。理由がなくても、今、ここで、生きていることが、すべての出発点なのだと。


エピローグ

春、凜はノートの最後のページに、一篇の短い詩を書いた。

それは、あの夜に静子が読み上げた詩への、返事のつもりで書いた。でもペンを置いたとき、それはもう返事ではなく、自分自身の声だとわかった。


魂の輝き信じ、そのために、今を生きる。 シナリオは道標、進むべき方向示す。 助けられて感謝し、命を大切にする。 すべて内側にある、愛と光を放つ。


窓の外で、桜が一枚、風に乗って空へ舞い上がった。

凜はそれを目で追いながら、静かに微笑んだ。どこへ向かうかわからない花びらが、でもただ美しく、ただ軽やかに、空の中に溶けていった。

あんなふうに生きられたら、と凜は思った。

——いや。もうそう生きている、と気がついた。

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ソウルミッション358

あなたの魂の物語を生きる